かぐらむら

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今月の特集自由、気ままな過ごし方

“神楽坂好み”の時間

名画座から路地へ逃亡

◆な

photo映画が終わった所から始まる物語。金曜日の夜のギンレイホールからは、様々な眼をもった顔が出てくる。悲しいラストシーンか、不条理な結末か、その最後は知らないが、暗がりから出てきた眼には、ほんの数分前の映像の片鱗が青白く点滅している。右に折れてJR駅側へ向かうのか、あるいは左へ折れて、軽子坂をのっそり上り始めるか。暗がりを出てきた所から一人ひとりの物語が始まる。掃除や後片づけを始めた映画館のスタッフの何気ない動作も、見方によっては、新しい物語の始まりを予感させる。外濠に月でも出てたら、なおさらだ。

名画はその結末次第で、人に失踪をそそのかしたりすることがある、と私は密かに考えている。帰り道、あまりに月並みな日常から、あまりに虚ろな心のやり場から、失踪願望が胸を鷲づかみにする。するともう、まともに家路につくことはできない。神楽坂の路地から路地へと、絶好の抜け道空間を渡り歩いて、どこまでも自己からのがれようとする。この悲しい情緒不安定者にとって、路地は絶好の移動隠れ家だ。ギンレイホールが、週末にやり切れないほど悲しい映画を上映すればするほど、路地には行き場のない失踪願望者の眼が多くさまよっている。