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今月の特集極私的神楽坂まち案内2007

あなたなら、どこへ案内しますか?

父と子で観た『神楽坂をどり』

 

photoこの日のために私が用意したのは、『神楽坂をどり』のチケット2枚と、カナルカフェの水辺の席の予約。わざわざ春のこの日を選んだのは、年に一度の神楽坂芸者衆の顔見せ興業があったから。以前は、『華の会』と呼ばれていたが、今年から『神楽坂をどり』とし、昔の伝統ある名前を復活させた。日頃研鑽を積んだ芸のお披露目である。少しは神楽坂で遊んだという父の反応が楽しみだった。

幕が開くと、艶やかな美と芸の競演は、予想以上の手応えであった。父は身をのりだして舞台を見つめ、三味線や謡に合わせて小さく頷いていた。父は、田中角栄元首相と一回り年がちがうが、同じうま年生まれが口癖だった。今年喜寿の祝いも兼ねて私が連れ出したのである。しばらくして父は「お前は、お座敷で遊んだことがあるだろう?」と聞いてきた。私は、一度だけあったがなぜか気を使って「ない」と答えた。すると、「今度、一緒に行こうか」といって楽しそうに笑った。終演間際のフィナーレでは芸者さんが投げた手拭いが、父の膝元に落ちて、上機嫌だった。

photo観劇後は、花柳界とはまるで違う水辺のレストラン「カナルカフェ」ヘ。赤ワインを傾けながら、少しづつ夕暮れていく景色は、一枚の水彩画のように澄んでいた。父は照れくさいのか、お濠の方角ばかり眺めていた。あれから半年、いまは病床にある父だが、あの時いい孝行ができたと思う。(志)
(写真2点/平成19年4月の「神楽坂をどり」より(C)中道順詩)