かぐらむら

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今月の特集手づくりの心意気を神楽坂で感じてみる

神楽坂 手仕事の現場から

家紋の型紙、約一万枚

疋田紋糊店

photo森川さん宅の三軒隣りに、紋糊(もんのり)の疋田宏一郎さんが住む家がある。五十年以上続けている仕事場でもある。紋糊とは、染めをする前に、家紋の入る場所を白く残すために、家紋を型どった型紙を用いて糊妨染する仕事である。糊の材質は、昔はもち米でつくった餅のりを用いたが、今は樹脂糊に青花で着色したものを使用している。型紙も、昔は渋紙、今はビニールに替わった。家紋の輪郭を切り抜いた型紙の数お聞きすると、一万枚近いとのこと。すべて手仕事で切り抜かれ、いつの間にか膨大な数になっていた。

疋田さんも森川さんも、代々神田で職人の家に生まれ、戦後早くに神楽坂に越してきた。神田の町から新宿区へ移り住んだ職人さんは多いと聞く。それには、地形的な理由がある。大正時代、神田川、妙正寺川の川筋に染色工場ができ、染色に関連する職人が川筋に移り住んだのが始まりだ。昭和30年頃までは、町中の清流で水洗いする光景も見られたという。この川筋に様々な職人たちが仕事場を設け、東京染小紋、東京手描友禅、江戸更紗など優れた技の担い手が集まり、新宿が『染めの王国』と呼ばれていた時代が、つい最近まで続いた。神楽坂も、少し離れているが神田川の川筋なのである。

photo手仕事が築いた伝統と技は、一朝一夕にはつくられない。長い時間をかけて技を修得し、それを支える関連産業の中で磨かれ、着物を大切にする人々によって育てられなければ生き残れない。それらの伝統と技が、あまりに早い時代の変化の時代に追いつめられている。ていねいな仕事の積み重ねでしか、よい仕事は生まれないということを、一番よく知っているのは、手自身なのかもしれない。
【住所】東京都新宿区神楽坂6-24
【電話】03-3260-8541