かぐらむら

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今月の特集後編神楽坂の職人が発するクリエイティブの胎動

手仕事の現場から

美の製法、Alberoの場合

belpasso[ベルパッソ]

photo靴は消耗品であり道具である。歩行を滑らかにする機能は、道具たる靴の使命である。しかし同時に道具とは、作り手と使い手の感性が共鳴する宿命にある。伊達や洒脱を迎えることは、何も機能を失うことではない。機能に趣向が寄り添うことは、新たに道具の洗練を導くことすらある。
若宮町にアトリエ「ベルパッソ」を構える靴作家捧(ささげ)恭子さんは、機能と趣向、消耗品と作品、その重心を模索しながら、靴を作り続けて二十年になる。ヨーガンレールでテキスタイルの仕事に携わったのち、自分自身の美意識を表現できる世界として靴を選ぶ。靴工場で仕事をしながら学校へ通い、ミラノで研鑽を積んだ。

ベルパッソの靴は、ひとりの足と歩行のために「あつらえる」靴ではあるが、やはり自然界の有機性を想起させる特異な面差しに目を奪われる。
「樹」という名前を与えられたAlberoシリーズは、大地に根を張り、空へと枝葉を広げる樹木に着想を得、ヒールを作ることから始まった。樹木の根幹は脚を支える軸たるヒールとなり、葉の輪郭は足を佳麗に見せるアッパーラインとなった。Alberoには通常の塗装ヒールのほかに、漆塗りヒールも用意されている。漆は古来より、日用品の利便性を担保し、工芸品の美術性を拡張してきたが、このヒールは後者に重心を置きつつも、前者の重力を忘れてはいない。
Alberoは、捧さんの優美な思念だけではなく、彼女を支える多くの職人の丹精な仕事をも透き通らせる。漆塗りヒールは、ヒールを形にした作家、金型作りの職人、漆塗りの職人と三人の手を経て完成した。また靴を成形するつり込みの作業にも、熟練の職人の技がある。
ひとつの靴は多くのものを映し出す。靴の役割と機能、作家の趣向に創意、職人の技巧に熱意、そして足を入れる者の解釈と主張。このアンサンブルによる美の響映は、道具であるがゆえに生まれ得た美しさに他ならない。

photobelpasso
【住所】東京都新宿区若宮町11
【電話】03-5228-6528
【URL】http://www.belpasso.jp/